不動産を購入するにあたり、法人と個人のどちらで所有するべきかは判断が難しいポイントです。
節税の視点で、その判断のポイントをまとめてみました。
目次
長期所有なら法人所有が有利
不動産の購入目的が、長期所有して収益を上げていくのが狙いの場合は、法人所有を前提に検討すると良いでしょう。
法人の方が税率を抑えやすい
収益への課税(税率)は、法人所有が約35%に対し、個人所有は約20%~約60%になります(個人の税率には住民税、個人事業税を含む)。
個人の所得が900万円を超える場合は、個人所有の方が税率が高いため、投資前の個人の所得が少ない場合を除き、法人所有の方が有利です。
参考記事
また、法人所有の場合は、法人に入ってくる不動産収益を、役員報酬という形でオーナーや家族へ分配することができます。
個人ひとりの所得が増えれば増えるほど税率が上がりますので、何人かで分散すれば、税率が上がることを抑えることができるわけです。
次のように、個人所有の場合は、オーナー一人で所得(利益)を抱え込むので、税率が高くなります。
次のように、法人所有にしたうえで、何人かで利益を分配すれば、一人当たりの所得(利益)は、オーナー一人で利益を抱え込むより税率が低くなります。
個人でも、家族への分配はある程度は出来ます(=専従者給与)。しかし、専従者が外でパートをしているとダメ、など制約があり分配し辛い面があります。
法人の方が認められる経費の幅が広い
法人所有の場合は、個人に比べて経費として認められる範囲が広い傾向にあります。
参考記事
値上がり益(キャピタルゲイン)狙いなら個人所有が有利だが・・
不動産の購入目的が長期保有でなく、値上がり益(キャピタルゲイン)狙いの場合は、個人で所有したほうが有利です。
値上がり益に対する課税(税率)が、個人が約20%に対して法人が約35%ありますので、圧倒的に個人有利です。
ただし、購入後5年以内に手放す場合は、個人の税率が約39%になり、法人を上回ります。
購入後5年以内に売り抜けるのが明確なら法人で、売却が購入後5年を超える見込みなら個人で所有するのが良いでしょう。
ちなみに、消費税の課税事業者の場合は、売却した年(法人なら事業年度)で建物売却分の消費税を申告納税する必要があります。(個人事業者でも法人でも同じ)
売却のタイミングは市況や資金繰りなどの要素が大きいですが、税率や消費税の課税事業者のこともプランニングして売却を実施すれば、手残りをより増やすことができるでしょう。
相続対策としての購入なら、目的を明確にして判断
相続対策としての不動産購入なら、財産を圧縮する目的が殆どかと思われます。
参考記事
既に法人を所有しており、法人の株価を下げ(て生前に株式贈与し)たいなら法人所有、単に個人財産を圧縮したいなら個人所有が良いでしょう。
法人所有は購入後3年以内は財産圧縮効果なし
法人所有の場合で要注意なのが、購入後3年以内は財産圧縮の効果がでないことです。
財産評価のルール上、法人所有の場合に限り、購入後3年以内は不動産を取引価格で評価することになっており、相続税評価(=時価より低い評価)が使えないのです。
個人所有は購入時が最も財産圧縮効果が高い
個人所有の場合は、不動産購入時に最も財産圧縮効果が高くなります。
時間がたつと、不動産から生じる収益が財産として積みあがっていくため、財産圧縮効果が減少していきます。
小規模宅地等の特例は個人所有のみ可
小規模宅地等の特例(一定の自宅用土地、事業用土地などの評価額を50%~80%引きにできる制度)は、個人所有の土地にのみ有効です。
既に所有している土地に小規模宅地等の特例の適用を予定してい場合は、この論点は気にしないでOKです。
ただし、これから購入しようとしている土地に特例の適用を検討している場合は、個人所有するしかありません。うっかり法人で取得すると、特例の適用ができません。
財産の承継は法人所有の方がローコスト
生前贈与により不動産を子へ承継させる場合は、法人所有の方がローコストで、かつ手軽です。
個人所有の場合、不動産を全て贈与すると多額の贈与税が掛かるので、共有持ち分の一部を毎年少しずつ贈与することになります。
この場合、毎年登記手続きを行う必要があり、不動産の所有権が変わることによる税金(登録免許税、不動産取得税)が発生します。
法人所有の場合、不動産を所有している法人の株式を贈与しますので、登記手続きは不要ですし、登録免許税、不動産取得税は発生しません。
まとめ
これまで書いてきたことをまとめると、次の通りです。
法人所有 | 個人所有 | |
収益への課税 |
〇 税率 約35% オーナー以外へ分散し易い |
× 税率 約60% オーナー以外へ分散し辛い |
出口(売却)への
課税 |
× 税率 約35% |
〇 税率 約39%(5年以内) 約20%(5年超) |
財産の圧縮効果 | △
購入3年以内は効果なし |
〇
購入直後から効果あり 小規模宅地等も使える |
承継のし易さ |
〇 株式を動かすので 登記費用等がない。 贈与向き |
× 登記費用等が必要 部分的な贈与をし辛い |
不動産の所有目的をよく検討して、その時で最善の選択をするようにしましょう。
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【編集後記】
午前中は相続関係の手続きのため金融機関巡り、午後はプロフィール写真の撮影をして頂きました。