相続税は、財産から債務を差し引いて、更に一定の生前贈与を足した金額(=純資産)を基に計算します。
一見単純に見えるこの算式が、思わぬ勘違いを呼ぶことになります。
(本編をお読みになる前に注意!)
本記事における生前贈与は、一般的な贈与のことを指しており、相続時精算課税を使った贈与は除きますのでご注意ください。
相続時精算課税を使った贈与は、本ブログ内では相続財産と同じ扱いで考えて頂いて結構です。
財産全体でトントンなら相続税は掛からない?
ある資産家に相続が起きた後のお話です。
生前に相続対策を一生懸命行なった効果で、相続財産より債務の方が大きくなりました。
それというのも、不動産を購入すると、相続税の計算上は評価額がグンと下がるからです。
(評価額がグンと下がる仕組みはこちら)
ただ、生前贈与があり、相続税の計算に含めないといけませんが、それでも相続税はどうやら支払わなくても済みそうです。
(生前贈与についてはこちら)
これまでの状況を表にまとめると、このような状況です。
純資産がゼロなので、相続税は支払わないで済みそうです。
遺産分割協議の結果はまさかの・・・
さあ遺産分割協議です。
協議の結果、次のようになりました。
Bさん、Cさんは、不動産を相続したのですが、先ほどのお話の通り
不動産の時価 > 相続税の計算上の評価額
のため、あくまで相続税の計算上は債務の方が大きいことになっています。
まぁ、でも相続税は支払わなくていいだろうし、めでたしめでたし。
・・・ではないのです。
先ほどの表に、一行増やしました。黄色い行です。
財産全体では純資産ゼロだった筈なのに、何故かAさんとCさんに純資産が・・。相続税を支払うことになってしまいました。
一体何故でしょう???
財産全体ではなく相続人毎に純資産を計算する
財産全体で考えればトントンにも関わらず、何故AさんとCさんは相続税を支払うことになってしまったのでしょうか。
答えは、純資産を「財産全体ではなく、相続人毎に計算する」からです。
先程の表にもう一度登場してもらいます。
財産全体で見れば、純資産は200ー230+30=0ですが、この計算は相続人毎に行わないといけません。つまり
Aさんの純資産 = 100ー70+30 = 40
Bさんの純資産 = 45ー60 = ▲15→0
となります。
そして、相続人毎に計算した純資産を合計して、それを基に相続税の計算を進めていきます。
そのため、財産全体で計算すればトントンにも関わらず、AさんとCさんは相続税を支払うことになるわけです。
生前贈与と債務は相殺できない
もう一つ大事なポイントがあります。
それは、「生前贈与と債務は相殺できない」ということです。
先程あえて説明しなかったCさんを見ていきます。
Cさんの純資産は、普通に考えれば
55ー80+20=▲5
となり、相続税の掛かる余地はないように見えます。
ところが、債務を差し引くことができるのは相続財産のみと決まっており、生前贈与から差し引くことは出来ないのです。
相続財産から債務を差し引いた結果が赤字なら、それはゼロ(切り捨て)扱いになります。
つまり、正しいCさんの純資産は
55ー80(マイナス切り捨て)+20=20
ということになります。
結果として、生前贈与と債務は相殺できない、ということになります。
まとめ
生前の相続対策や相続税の試算を行う際は、財産の合計金額を基に検討することが殆どだと思いますが、相続人毎の遺産分割予定額まで落とし込んで試算を行わないと、思わぬ結果を産むことがあります。
特に、不動産投資による相続対策を行なっている場合は、相続人毎の純資産がマイナスになりやすいので要注意です。
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【編集後記】
ここ2週間ほど、購入すべきか迷っていたものを思い切って購入しました。
それが何かは、もちろん今後のブログでご紹介します!