2017年8月23日付の産経デジタルによると、経済活性化のために、政府が交際費の特例を2年延長する方向で検討に入ったとのことです。
経済活性化?ホントになるの??
この疑問を解消するために調べたことを、書いてみたいと思います。
交際費の特例とは?
前振りなので、ご存知の方は飛ばしていただいても。
企業が接待などのために支出する交際費は、会計処理上は当然経費扱いです。
しかし、法人税の計算上は、原則として全額経費にならないとしたうえで、一部を例外的に経費として認めますよ、という決まりになっています。
この「例外的に経費として認める」範囲が、時の経済情勢などに応じて変更されています。
現在(平成28年4月1日以降に開始した事業年度)は
・中小企業(資本金1億円以下、大企業の子会社など除く)
→年800万円まで経費扱いか、飲食費のみ50%まで経費扱いか有利な方を選択
・それ以外の企業(比較的大きい企業や、その子会社など)
→飲食費のみ50%まで経費扱い
となっています。
例えば、資本金が1億円を超えるような企業が、得意先へ盆暮れの贈答を行った場合、法人税の計算上は経費にならない、ということです。
交際費の特例の2年延長の狙いは経済活性化
こちらも前振りなので、同様に。
この「例外的に経費として認める」決まりは、未来永劫ずっと認めるということではなく、法律上は期限を切っています。
現在の決まりは、2018年3月31日までに開始した事業年度が対象ですが、冒頭の報道は、これを2020年3月31日までに延長することを検討している、というものです。
延長の理由は、経済活性化とのこと。
企業に飲食を伴う接待をジャンジャンやってもらって、どんどん経済活性化しましょう、ということです。
要望を出すのは厚生労働省です。はて?と思われるかもしれませんが、厚生労働省ー保健所ー飲食業許可ー飲食店、という繋がりです。
余談ですが、経済産業省も中小企業(交際費を支出する側)の立場で同様の要望を出すはずです(過去がそうだったので)。
本当に経済活性化になるの?
前振り終了、ここからが本題です。
まず、こちらをザッとご覧ください。
過去10年の交際費の支出額、実質GDP、交際費の例外ルールの変更状況をまとめた表です。
年度 | 交際費 | 法人数 | 一社あたり 交際費 |
実質GDP | 交際費例外 (中小企業) |
交際費例外 (その他企業) |
平成18年度 | 3兆6313億円 | 2,197,933社 | 1,652,185円 | 499兆6463億円 | 400万円までOK (但し10%はダメ) |
全額ダメ |
平成19年度 | 3兆3799億円 | 2,203,352社 | 1,534,023円 | 505兆5068億円 | 〃 | 〃 |
平成20年度 | 3兆2260億円 | 2,104,584社 | 1,532,874円 | 488兆0338億円 | 〃 | 〃 |
平成21年度 | 2兆9978億円 | 2,322,598社 | 1,290,735円 | 477兆5114億円 | 600万円までOK (但し10%はダメ) |
〃 |
平成22年度 | 2兆9359億円 | 2,301,715社 | 1,275,558円 | 492兆8327億円 | 〃 | 〃 |
平成23年度 | 2兆8785億円 | 2,286,654社 | 1,258,832円 | 495兆0536億円 | 〃 | 〃 |
平成24年度 | 2兆9010億円 | 2,240,405社 | 1,294,863円 | 499兆6338億円 | 〃 | 〃 |
平成25年度 | 3兆0825億円 | 2,287,532社 | 1,347,537円 | 512兆6515億円 | 800万円まで | 〃 |
平成26年度 | 3兆2505億円 | 2,243,709社 | 1,448,723円 | 510兆3016億円 | 〃 | 飲食費50%OK |
平成27年度 | 3兆4838億円 | 2,282,294社 | 1,526,461円 | 516兆7916億円 | 〃 | 〃 |
平成28年度 | ? | ? | ? | 523兆4736億円 | 〃 | 〃 |
※出典
・交際費及び法人数:国税庁ホームページ(ホーム>活動報告・発表・統計>統計情報>会社標本調査結果)
・実質GDP:内閣府ホームページ(内閣府ホーム > 統計情報・調査結果 > 国民経済計算(GDP統計))
※年度は、例えば平成28年度なら平成27年4月から平成28年3月までの期間を指します。
※一社あたり交際費、交際費例外の変遷は筆者によります。
※法人数は交際費を支出した法人数です。
この表を眺めて、どう思います?
筆者なら
経済活性化にならん!以上!!
とバッサリ斬って捨てたいところですが、1時間もかけて作成した表なので、少しは味わってから切って捨てたいと思います。
まず、交際費が例外的に経費になる決まりですが、年を追うごとに緩くなっているのが分かります。
中小企業向けの例外枠が平成21年4月より600万円に拡大した理由は、平成20年9月に起きたリーマンショックに伴う景気後退局面への対応策と思われます。
平成25年4月より800万円に拡大した理由は、安倍第二次政権が平成24年12月に発足したことと無関係ではない、いや、関係大いにありでしょう。
安倍第二次政権は、これだけでは不足と見たのか、翌年にはその他企業の交際費も飲食限定ながら半額が経費になるようルール変更しています。
まず指摘したいのは、例外枠が600万円に拡大したのにも関わらず、一社あたりの交際費は減少し続けた、という事実です。
減少した原因は、もちろんリーマンショックによる景気後退でしょう。
これだけ取り上げても、交際費のルール変更が企業の接待意欲を後押しするものではないことが読み取れます。
もし、交際費のルール変更が企業の接待意欲を後押しするとなると、接待の主力部隊である営業部門が交際費のルール変更を知っている必要がありますが、果たして税務をガッツリ勉強している営業マンがどれだけ存在するのやら。
ということは、財務部門なり何なりが、営業部門へ「交際費じゃんじゃん使っていいよー」と指令を出して、「そうか、使っていいのか!」と営業部門が動くことが考えられますが、財務部門がそんな無駄遣いを推奨するような指令を出すとは、とても思えないのです。
以上の理由から、例外枠の拡大→企業の接待意欲増大→経済活性化の図式が成り立たないことが分かります。
いやいや、ちょっと待てよ、例外枠が800万円に拡大した後は一社あたり交際費も増えているでしょう、とのご指摘はごもっともです。
でも、よく見てください。実質GDPを。
平成25年度以降の一社あたり交際費が増えた理由は、アベノミクス→三本の矢→景気回復(期待)→株価上昇→景気に好影響→実質GDP増と考えた方が妥当じゃないかと。
もちろん実質GDP増は他の要因もあるでしょう。
しかし、交際費の例外枠が800万円に拡大し→交際費の総額が2千億円弱増加→実質GDPが13兆円増えましたという説明は、どう贔屓目に見ても無理があります。
他にも言いたいことがありますが、これぐらいで控えておきます。
とにかく、交際費のルール変更が経済活性化に繋がるとはとても言えないことは、データが物語っているのではないでしょうか。
交際費課税はもう要らない
先ほどから、交際費の一部が法人税の計算上経費として認められる特例、と表現していますが、実は、交際費が経費にならないルールそのものも、期間限定の特例なのです。
ある時から、法人税の計算上は交際費が経費にならないルールが期間限定で出来たのです。
期間限定だった筈が、期限が到来する度に様々な理由を付けて延長し、今に至る訳です。
交際費が経費にならないということは、税収の増加に繋がりますから、一度増加した税収を減らしたくないが為に「交際費が経費にならないルール」を廃止に出来ないのは理解できます。
が、しかし、交際費課税の調節により、企業の接待活動をコントロールすることが出来ないし、経済活性化にも繋がらないことが明らかです。
更に、経済活性化を錦の御旗として頻繁に変更することで、交際費課税の本来の目的(=企業の無駄遣いの防止)の正当性を弱めているように見えます。
合理的な理由がよく分からない決まりは即刻廃止した方が、より分かり易い税金に繋がって良いと思うのですが、いかがでしょうか。
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【編集後記】