法人成りをする際には、個人事業時代の資産や負債を法人が引き継ぐことになりますが、負債の方が大きい場合はどうなるか、考えてみたいと思います。
目次
法人成りとは
まずは、法人成りの意味について説明します。
個人として事業を行なっている場合、諸々の事情により法人(株式会社や合同会社など)として事業を行なった方が良い場合や、取引先から求められる場合があります。
このような時には、法人を新たに設立し、それまで個人で行なっていた事業にかかる資産や負債を、設立した法人でへ売却します。
このことを「法人成り」といいます。
一般的な法人成り(資産>負債)
法人成りを行う場合は、それまで個人で抱えていた事業用の資産や負債を、法人へ売却してやる必要があります。
例えば、個人で持っている事業用の資産と負債が、こんな感じだったとします。
※元入金については、今までの利益の蓄積とお考えください。
事業用の資産1,000万円は、利益の蓄積200万円(自分のもの)と、負債800万円(他人のもの)からなる、と言えます。
これを法人に移動(=個人から法人へ事業用資産を売却)します。
移動後の法人の資産と負債は、次のようになります。
(本当は資本金とか有りますが、説明を簡単にするため省略しています。)
法人から見ると、差し引き200万円分の事業用資産・負債を買ったと考えるわけで、お金は動いていませんので、差引き200万円の代金は個人へ支払う必要があります。
そのため、この200万円は個人に対する未払いとして処理します。
資産<負債の場合は??
それでは、個人で持っている事業用資産より事業用負債が大きい場合はどうなるでしょうか。
負債の方が大きいということは、過去の業績の蓄積は赤字、ということです。
法人成り後の法人の財産・負債の状態は、次のようになります。
(資本金は省略しています)
法人からすると、事業用資産800万円分を個人から購入したものの、事業用負債1,000万円を個人の代わりに肩代わりしたようなものなので、差引き200万円を個人に請求する権利があります。
そのため、この200万円は個人に対する未収金として処理します。
注意点
銀行借り入れがある場合は、営業担当者を通じて根回ししておく
銀行借り入れがある場合は、個人としての借入金を法人へ移す必要があります。法人成りを検討する段階で、営業担当者に根回しをしておきましょう。
特に、事業用資産<負債の場合は、法人への切り替えが難航する可能性があります。
※ときどき、実質は法人の事業で使っているんだからと、借入金の名義が個人のままの状況を見ることがあります。
この場合において、法人から利息を支払ったとしても、それは本来個人が払うべきところを法人が立替払いしただけなので、法人の経費にならない、とされる可能性が高いです。
(過去にそのような事例があります。参考:平成25年7月19日裁決)
借入金は、放置しないでちゃんと法人名義に切り替えましょう。
営業権の認識は慎重に
営業権とは、数値では現れない事業価値を見積もって、それも一種の資産だよね、とする考え方です。
特に、事業用資産<負債の場合に、損失の埋め合わせのために無理やり営業権が計上されるケースをよく見かけます(上の図のような状況)。
問題は、営業権は一体ナンボやねん?つまり値付けが難しいことです。
営業権=数値では現れない事業価値、ということで、その事業が将来に獲得するであろう収益を基に評価することが多いです。
とはいえ、未来の収益がいくらなのか分からない、そもそも将来何年分の収益を基にするのかなど、営業権の評価は一筋縄ではいきません。
上の図のように、損失の埋め合わせとして営業権を計上するのはやめておきましょう。これでは営業権の金額に全く根拠がない、ということになります。
なお、筆者の例では、法人成りに際して営業権を認識したケースはありません。周囲でもあまり聞く話ではないので、営業権を計上しようとお考えの方は、どうか慎重に、理論武装をお忘れなく。
個人側の税務処理を忘れないように
法人成りによる事業用資産や負債の移転は、個人側の立場で見ますと財産を売ったものと同様になります。(お金が手元に入金されていなくても)
例えば、資産の中に商品があれば、通常の販売と同様に売上として認識する必要がありますし、消費税の課税事業者なら消費税の課税対象取引になります。
個人側の税務処理は、うっかり見落としがちなので忘れないようにしましょう。
まとめ
法人成りに際しての、それまでの事業用資産と負債の扱いについて説明いたしました。
ここをしっかり処理できていないと、将来の法人の税務処理で困ることになりますので、よく確認して漏れのない処理を心がけましょう。
||||||||||||||||||||||||||||||||
【編集後記】
本日もなんと1日中内勤。そのおかげでほぼ完成と相成りました。