相続税対策やその他の事情で養子縁組が行われることは珍しくありませんが、養親より先に養子に不幸が生じることがあります。
養子に先立たれた後に養親が亡くなった場合で、養子に子がいるときは、法定相続人の考え方が少々ややこしいので注意が必要です。
法定相続人はだれ?
まず、こちらの親族図をご覧ください。
今回、Aさんに不幸がありましたが、Cさんは既にお亡くなりになっています。
パッと見たところ、相続人は
・配偶者のBさん
・子供Cさんの代襲相続人(=後で説明します)であるDさん
の2人に見えます。
ところが、CさんはAさんの実の子供ではなく、養子だったのです。
養子の子は必ずしも代襲相続人になるとは限らない
相続人である子供が亡くなっている場合、その子供の子(被相続人からみれば孫)がいる場合には、子供に成り代わって孫が相続人になります。
この場合の孫を「代襲相続人(だいしゅうそうぞくにん)」と呼びます。
ところが、相続人である子供が養子の場合、話はそう簡単ではないのです。
先に結論をお話ししますと
・養子縁組前に生まれた養子の子供は、代襲相続人になれない。
・養子縁組後に生まれた養子の子供は、代襲相続人になる。
となります。
先程の親族図では、被相続人(養親)Aさんと養子Cさんは平成25年に養子縁組されています。
先程の結論に当てはめると、養子Cさんの子供Dさんが
・養子縁組より前に生まれているなら、子供Dさんは代襲相続人になれない。
・養子縁組より後に生まれているなら、子供Dさんは代襲相続人になる。
ということになります。
ここで注意が必要なのですが、子供Dさんが代襲相続人になれない場合は、被相続人Aさんから見て子や孫の相続人がいない(もちろんAさんの親もいない)ため、Aさんの兄弟であるEさんが法定相続人になります。
つまり、養子Cさんの子供Dさんが
・養子縁組より前に生まれているなら、法定相続人は配偶者Bさんと兄弟Eさん
・養子縁組より後に生まれているなら、法定相続人は配偶者Bさんと養子の子Dさん
ということになります。
根拠となる法律
根拠となる法律を確認してみましょう。
民法 第八百八十七条 被相続人の子は、相続人となる。2 相続人の子が、相続の開始以前に死亡したとき、又は第八百九十一条の規定に該当し、若しくは廃除によって、その相続権を失ったときは、その者の子がこれを代襲して相続人となる。ただし、被相続人の直系卑属でない者は、この限りでない。
黄色いマーカーを引いた箇所が代襲相続人の説明ですが、注目したいのは赤字の箇所。
つまり
「被相続人の直系卑属(=子、孫、ひ孫、玄孫など)以外の人は代襲相続人じゃないよ」
と言っているのです。
ここで、養子の子が被相続人の直系卑属なのか否かが問題になってくるのです。
この判断は法律には書かれていなくて、昔の裁判で行われた判断を基に行うのですが
・養子縁組より前に生まれているなら、養子の子Dさんは被相続人Aさんの直系卑属ではない
・養子縁組より後に生まれているなら、養子の子Dさんは被相続人Aさんの直系卑属である
となっています。
養子縁組より前に生まれた子でも代襲相続人になる場合
次に、こちらの親族図をご覧ください。
今回、Bさんに不幸がありましたが、配偶者のAさんと養子のCさんは既に亡くなっているので、相続人はDさんです。
では、Eさんはどうでしょうか?
先程確認したルールで判断すると
・Eさんは既に亡くなっている養子Cさんの子供だから代襲相続人?
・でも、養子縁組より前に生まれているから、代襲相続人じゃないね。
といった判断になると思います。
ところが、結論を先に申し上げると、EさんはCさんの代襲相続人になるのです。
先程確認した法律の根拠に当てはめれば
・養子縁組より前に生まれている養子の子Eさんは、被相続人Bさんの直系卑属ではない
ということになりそうですが、実は
・被相続人Bさん → 実子のDさん → Eさん
と見れば、Eさんは被相続人Bさんの直系卑属となり、代襲相続人になる条件を満たすのです。
養子Cさんルートで見れば直系卑属ではないけど、実子Dさんルートで見れば直系卑属、ということですね。
ちなみに、筆者が一昨年実際にお手伝いさせて頂いた相続税申告が、正にこのパターンでした。
まとめ
法定相続人の判定は、間違えると相続税の申告に影響がありますし、不動産の相続登記や金融機関などの相続手続きもスムーズに進まなくなります。
場合によっては、専門家の力を借りることも必要かもしれません。
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【編集後記】
税理士試験の受験科目に相続税法があるのですが、計算問題の最初に必ず法定相続人の判定を行います。
これが相当ややこしい親族図で、更に必ずと言って良いほど愛人が登場し、その名前は何故か決まって「S」。
法定相続人の判定を間違えると、他の項目が如何に正しくとも、不合格が確定するそうです。